イラスト:石田 光和(エム・プリント)
今から450年前は戦国時代である。その頃、正月の供え物に「めくろ餅」という餅があった。ゴマを入れて搗(つ)く黒い餅である。それを楕円形にして、白い楕円の餅に重ねて神前に供える。
黒白の重ね餅とは何を意味するのか。この疑問に、はじめは黒白は色素がなく、清浄を意味する、とのみ単純に考えていたがそうではなかった。
黄櫨染*(こうろぜん)は別格であるが、黒は根元的なもので、白は太陽の輝きを意味する。神が現れるのは夕暮れで、夜は黒の世界である。ゆえに伊勢神宮はじめ各地の神社で使用する幕は黒白である、とは『日本の神々』が記すところだ。そういえば、天皇陛下が式典でお召しになる御袍(ごほう)は黒であると気付かれる人もいるのではないか。
*赤みの暗い茶褐色。天皇陛下が儀式で着る袍(ほう)の色で絶対禁色とされている。
では、なぜ楕円形の供え餅であるか。それは、人の魂の形を象徴したものという。正月は常世(とこよ)から先祖霊が現世を訪れ、その祖霊に人が延命を祈願する行事である。生命の根元と太陽の輝き、それに魂を重ねたものが正月の飾りであった。
赤白は何の意味もない。赤漆を食器の内側に塗るようになったのは魔除けの意味である。なお、めくろの「め」は芽であれば、生命の根元から萠え出る芽を意味しよう。
大場喜代司
『むらかみ商工会議所ニュース』
(2008年1月号掲載)村上市史異聞 より